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相続税対策のための賃貸経営に吹き始めた逆風

危険な3つの落とし穴もチェック!

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イメージ/123RF

この4月17日、日本銀行が「金融システムレポート」の4月号をリリースしています。原則年2回公表されるものです。この中で、不動産業向けの貸出しにおける対GDP比率を示すヒートマップ(金融活動指標)が、「1990年末以来、はじめて過熱を示す『赤』へと転化した」ことが示されました。


また、こうした状況にともない注視すべき点として、


・中小企業や個人など必ずしも損失吸収力の高くない借り手の比重が高い
・将来の物件需要に対して過大な投資となっていないか


と、いった懸念も掲げられています。


個人オーナーによる賃貸経営への投資と、それに対し行われている金融機関による融資の今後について、行方を不安視する内容のものといっていいでしょう。


また、こうした日銀による懸念は、各金融機関へも、当然共有すべきものとして浸透していきます。現在続いている不動産投資向け融資の引き締めに関しては、今後もしばらくはこのまま維持されていくはずです。


個人による、賃貸経営が目的の不動産投資といえば、動機は大きく2つに分けられます。純粋な投資と相続税対策です。


このうち相続税対策に向けては、税制面においても逆風が吹いています。昨年春に実施された小規模宅地の特例にかかわる法改正です。これにより、相続開始前3年以内に新たに住宅の賃貸を始めた場合、有利だった特例が使えなくなりました。相続対策ありきの賃貸経営に対し、国がブレーキを踏んだかたちです。相続税を減らそうと賃貸住宅を建てはしたものの、直後に被相続人が亡くなった場合、本特例部分についてはその想いは水の泡となってしまいます。(例外措置あり)


とはいえ、課税対象となる資産の大幅な評価減、借入金の控除と、相続税を低く抑えるため賃貸住宅を建てるという手段の有効性はまだ十分に残っています。しかしながら一方では、怖い落とし穴もこの道の行く手にはいくつか存在しています。「住宅メーカーはあまり大声で注意してくれない」などと一部にいわれる本当に怖い落とし穴です。


それら典型的な2つと、見逃されがちな1つ、合わせて3つの落とし穴をここであらためて整理しておきましょう。


落とし穴1:賃貸経営の失敗
賃貸住宅を建てることによって、相続税対策のスキームは上手く組み立てることが出来たとしても、その後の賃貸経営の失敗によって損失が生じ、節税で得をした分が消えたり、かえって損失が膨らんだりするケースです。目の前の課題である節税を追いかけるあまり、賃貸経営への見通しがおろそかになっていたり、住宅メーカーなどに言われるままコストのかかる物件や不利な契約を押し付けられていたり、あるいはオーナーの経営努力自体が足りなかったり、さまざまな原因によってこうした結果が生じます。

落とし穴2:納税資金不足
賃貸住宅を建てることによって、相続税の額こそ大きく減らせたものの、それでも残った税金を納めるための資金が不足してしまい、窮地に陥るケースです。もともとの資金計画が甘かったり、家賃収入が思ったように確保出来なかったり、それらが複合したりといったことが起こるとこうした事態に至ります。現金もほかの資産も無いので仕方なく建てた物件を売って納税、残金はすべてローンの返済に消えてしまい、何のための相続税対策だったのか意味を失ってしまったといった事例も聞かれます。

落とし穴3:健康・病気・ケガ
落とし穴1、2については、賢明な方はよく勉強し、防ぐ努力をしますが、それでもケアが抜け落ちていると失敗を招きやすいのが健康面でのトラブル・アクシデントです。賃貸住宅を建てることによる相続税対策では、その成立と引き換えに、被相続人や相続人は重い荷物を背負います。巨額の負債と、失敗が許されない賃貸経営という長年にわたる荷物です。その間、自身や家族の健康が失われたり、そのための保険などケアを怠ったりしたことが原因となって、生活が破綻する例もたびたび見られます。


以上、いかがでしょうか。


それでも賃貸住宅を建てての相続税対策は、現制度上は大変有効です。上手に使いこなせれば、被相続人はたくさんの財産を相続人に残し、未来への資本としてやることができます。


また、個人の資産が賃貸住宅に変わることは、人間にとって大切な住居というかたちで、資産価値が人々にシェアされることでもあります。ある意味では、社会貢献ということもできるでしょう。


では、そのためには何をすべきか?

まずはできるかぎり質のよいアパートやマンションを建てたいものですよね。それらは被相続人である父母や祖父母らが、生きた証として社会に残すものでもあるのですから。


相続人よし、被相続人よし、社会よしの「三方よし」こそが、ここでの心構えの基本です。


(文/朝倉継道 画像/123RF)

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この記事を書いた人

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